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香典返しを父娘で考える会話②|不器用な想いと感謝のかたち

「心で贈る香典返しシリーズ」

静かな夜、リビングに広がる香典帳

葬儀が終わって一週間。リビングのテーブルには、香典帳とお返し候補のカタログが広がっていた。娘の美咲は静かにページをめくり、父の健一は湯呑を手にしたまま、窓の外を眺めている。

「お父さん、香典返しそろそろ決めないと。四十九日まであと少しだよ」

美咲の声に、健一はゆっくりと視線を戻した。

「ああ…そうだな。母さんがいたら、こういうのも迷わなかったんだがな」

長年連れ添った妻を亡くし、男手ひとつで迎えた初めての葬儀。形式よりも気持ちを大切にしたい。そう思っていても、何をどう伝えればよいか分からない。そんな父の不器用な優しさが、娘の目にはしっかりと見えていた。

感謝と形式のあいだで

カタログを眺めながら、美咲がゆっくりと口を開いた。

「のし紙は”志”でいいんだよね。それで、挨拶状も添えるのが一般的みたい」

健一は少し眉をひそめた。

「うむ…でも、あまり堅苦しいのもどうかと思ってな。”ありがとう”って気持ちは伝えたいが、形式ばるのは苦手でな」

美咲は父の言葉に小さく笑った。

「それでいいと思うよ。お母さんも”気持ちが伝わるお返しを”ってよく言ってたじゃない。形だけ整えても、心がこもってなければ意味がないって」

健一は少し表情を緩めた。

「そうだったな…。じゃあ、母さんの好きだったお茶にするか。皆さんに”穏やかな時間を”って気持ちで贈りたい」

娘は静かに頷いた。香典返しは、ただの返礼品ではない。故人への想いと、参列者への感謝のかたち。それを父なりの言葉で伝えようとしている姿が、美咲には誇らしかった。

男性喪主が感じやすい「迷い」とは

喪主を務める男性、特に配偶者を亡くした方は、香典返し選びに独特の迷いを感じやすいものです。

「儀式」には慣れていても「心」の表現が難しい

男性は葬儀の段取りや手続きといった「形式面」には対応できても、「感謝の言葉」や「贈り物の心」を選ぶ場面では、照れや戸惑いが出やすい傾向があります。

特に、これまで「家の中のこと」を妻に任せてきた場合、お返しの品選びや挨拶状の文面に不安を感じるのは自然なことです。

「相手に喜ばれるもの」より「故人を思い出せるもの」を

そんなときは、「相手が喜ぶもの」を探すのではなく、「亡き人の人柄を思い出せる品」 を軸に考えると、自然に決まります。

たとえば…

  • 故人が好きだったお茶やコーヒー
    日常に溶け込み、静かに故人を偲べる品
  • 今治タオルなど上質な日用品
    年配の方にも喜ばれ、実用的で負担感がない
  • カタログギフト
    相手に選ぶ楽しみを提供し、幅広い年代に対応できる
  • 上品な和菓子やお茶菓子
    お茶の時間に故人を思い出していただける

大切なのは、高価なものを選ぶことではありません。
「あの方らしい」と感じてもらえる品こそが、心のこもった香典返しになります。

のし紙と挨拶状の基本

香典返しには、「のし紙」と「挨拶状」を添えるのが一般的です。

のし紙の基本

  • 表書き:「志」(仏式・神式)、「偲び草」(仏式)など
  • 水引:黒白または双銀の結び切り
  • 名前:喪主の姓のみ、またはフルネーム

挨拶状のポイント

挨拶状は、堅苦しくなりすぎず、感謝の気持ちが伝わる文面が理想です。

基本構成

  1. お礼の言葉
  2. 故人への厚情への感謝
  3. 香典返しを贈る旨
  4. 略儀のお詫び

文例

拝啓
このたびは亡き妻○○の葬儀に際しまして
ご丁寧なご厚志を賜り 誠にありがとうございました
ここに心ばかりの品をお贈りし
御礼のごあいさつに代えさせていただきます
本来ならば拝眉の上 御礼申し上げるべきところ
略儀ながら書中をもちましてご挨拶申し上げます
敬具

感謝を言葉で伝える勇気

香典返しの挨拶状を前に、健一は娘と一緒に、短く一文を考えた。

「故人が生前賜りましたご厚情に、深く感謝申し上げます」

ペンを持つ手は少し震えていたが、健一は丁寧に文字を綴った。

不器用ながらも、心を込めて。それは”かたち”を超えた、本当の香典返しだった。

美咲は父の横顔を見つめながら、静かに思った。

お母さん、お父さんはちゃんと感謝を伝えてるよ。あなたらしい、優しいかたちで――

まとめ:男性喪主だからこその誠実さ

香典返しは、形式を守ることも大切ですが、それ以上に**「故人への想い」と「参列者への感謝」**を伝えることが本質です。

不器用でも、言葉が少なくても、心を込めて選んだ品と挨拶状は、必ず相手に届きます。

第1話「母娘で考える香典返し」では、女性視点の丁寧な心配りを描きました。
第2話「父娘で考える香典返し」では、男性喪主ならではの誠実で静かな感謝のかたちをお伝えしました。

次回は、若い世代が直面する香典返しの悩みについて、リアルな視点でお届けします。

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